イベントの記録
シンポジウム 科学映画のこれまでとこれから
いのちの科学映像が切り拓くもの
アイカムの50年の足跡から考える

2022年11月23日(水・祝) 13:00〜17:00 アカデミー文京学習室
主催:NPO法人市民科学研究室 株式会社アイカム


■専門家をまじえての議論   15:30〜17:00

  細野朗先生         日本大学生物資源科学部 教授
  松井毅先生         東京工科大学応用生物学部 教授
  山口英世先生      帝京大学 名誉教授
  武田純一郎         株式会社アイカム 会長
  川村智子            株式会社アイカム 社長
  上田昌文            NPO市民科学研究室 代表
上田: アイカムの会長の武田さん、社長の川村さんと、先ほどの映画にも登場された山口先生、『共生のはじまり』をアイカムと一緒に作られた先生方のお一人の細野先生、それから松井先生です。事前に3先生にインタビューでご発言いただいた内容を短くまとめたものがありますので、最初にご紹介代わりにそれを流したいと思います。
事前取材のインタビューから、3先生のご紹介
細野先生
細野:




『共生のはじまり』の映画を作ったのは、腸内細菌がブームになり始めた時だった。いくつも調べてみたいことがあった。腸内に細菌がいるのはどういうことか。無菌状態に腸内細菌が入ってくるとどうなるだろうか。ある程度、成熟した個体だと急激に細菌が生体内で増殖して宿主が死んでしまうかもと聞いていたし、無菌マウスだと盲腸が大きいのが、腸内細菌がいるとどう変わるか。結構、おもしろかったのでこの部分は後で、データで論文に使わせてもらった。
 論文投稿するときに、最近は少しあるかもしれないけど、動画も添付できるとよい。やはりビジュアルはすごく魅力的だ。文章と動画を組み合わせてレビューにできるようになればいいなと思っている。いつかどこかで実現したい。学会活動で社会貢献する必要があり、その中で、それにふさわしいテーマを映像化できれば、社会的役割、ミッションとして有益だと思う。
山口先生
山口:










「先生はなぜ真菌学を専門にしたのか。」とよく聞かれる。真菌は同じ微生物と言ってもウイルスや細菌よりも形がはるかに複雑で、その映像は実に美しい。私もそうだったが、真菌の美しさに魅せられてこの学問分野に入った研究者は決して少なくないようだ。一直線に伸びるのではなく、三次元的にいろんな伸で方をする真菌の菌糸の撮影は、ピントを合わせるだけでも大変苦労するのだが、アイカムの技術はふだん見慣れている私たちでも驚くくらい見事で、まさに名人芸だ。こうしたアイカムの技術者と連名で真菌画像の論文を発表したこともある。

 学術的に価値のある映像を作れる研究者は減少する一方であり、そういう映像の制作を支援するための組織が欲しい。一般市民の愛好会的な組織であっても励みになると思う。わたしの研究施設(帝京大学医真菌研究センター)では、毎年夏休みに地域の小学生を対象に真菌の勉強会を開いている。その時にはアイカムで制作していただいた「医真菌学の歴史を訪ねて」などの映像作品を使うことが多い。若いうちから本物の真菌やその動く映像に触れさせ、併せて学問の歴史を知ってもらうことが将来の研究者や理解者を作るのに大事だと考えたからだ。これは私たち研究者にとっても有益なことであり、自分が何のために研究をするのか、これまでの研究をどう生かしてこれからどの方向に進めるのか、を改めて考えさせる良い機会にもなっている。
松井先生
松井:

私たちは日常的に動画撮影している。研究のデータとして撮って、動画の画像から軌道変化・形状変化を数値化して解析して、皮膚の進化研究に生かしている。動画でみないと本当の解明はできない。最近、ネットで動画を公開する研究者がいろいろ出てきた。ここ10年で急激に変化している。
 教育面でいえば、細胞内であのような様々な動きがあるのを初めて見てびっくりした。学生には学ぶ対象のイメージを持ってもらうことが大事だ。漫画だけで終わるのか、動画で本当の動きを見るのかで、理解度が全然違ってくる。教育には映像をぜひ活用したい。
アイカムとの関わり
上田: では、まず、先生方から、映画を見た簡単な感想とアイカムとの関わりをお話しください。
山口:







































「医真菌学の歴史を訪ねて 太田正雄と真菌研究」は 26年前の映像作品です。わたしはこうした医真菌学に関する映画やビデオをアイカムと一緒にこれまで40本余りも作ってきました。こんなに映像作りをやった研究者は、日本はおろか、世界中でもおそらくいないでしょう。わたしの自慢の一つです。最初は製薬企業などに頼まれてしぶしぶやったのですが、だんだんそれにはまってしまった。特に動画は、実際に生きて動く生き物をそのままの状態で撮ることになる。教科書に載っているような静止画の写真から想像したもの と比べて、動画で見る映像があまりに違うのに驚くこともしばしばです。とりわけ人間の体の中で生きて動いている真菌の姿を見てしまうと、これまで何を見ていたのかとつくづく思わされることも少なくありません。そして生き物を本当に理解するには、生きたままの状態で観察するほかないことを実感するのです。つまり真菌を顕微鏡で見たといっても、実際は標本にした死んだ真菌を見ているにすぎない。魚で言えば焼き魚か煮魚、決して生の魚ではありません。真菌に限らず、一般微生物の本当の理解はそこから始まるのではないでしょうか。

 私たちは、生体内の病原真菌の働きを調べる場合、まず感染させた実験動物丸ごとの状態を観察し、次に組織レベル、細胞レベルと進み、最後に分子レベルの解析を行います。この流れが感染の仕組みを明らかにするための研究の常道ですが、昨今はいきなり分子生物学だけで生物の全てが理解できるという幻想にとらわれている学生が少なからず見受けられ、懸念しているところです。

 私は医真菌学の中でも特に真菌感染症対策を主な研究テーマにしています。そのために病気を起こす真菌と人間とのいわばせめぎあいのメカニズムを知ることが大変重要です。 両者の関係はさまざまであり、良い関係の場合は共生と呼ばれ、まったく無害です。しかし 真菌が病原性を発揮して人の生体を攻撃する、つまり感染を起こす敵対関係の場合は、病原体である真菌の側の攻める仕組みと生体側の守る仕組みを生きた動物の病態モデルを使って解明しておく必要があります。さもなければ感染に対する適切な治療薬を見つけられないからです。

 私にとってこの上ない幸運だったのは、さまざまな真菌感染症の動物モデルにおける病原体と生体とのダイナミックな相互作用を見事にとらえた動画を作ってくださったことです。この映像は、研究はもちろんのこと、医学生の教育にも大変役立ちました。残念ながら日本には医真菌学の専門家が一握りしかいないので、私は現役時代にはあちこちの医大から講義を頼まれました。講義にはいつも動画を持ってゆくのですが、それが大変好評でした。しかし、いくら頼まれたからといっても、講義に行けるのはせいぜい10医大が限界です。出来れば、全国60ある医大のすべての学生にぜひ見せたいのですが・・・。せっかくの映像がこのままでは宝の持ち腐れになってしまうので、何とか活用する方策はないものかと悩んでいるところで、これが目下、最大の問題です。

 研究面でもいろいろ問題があります。先ほど松井先生が述べられたように、研究の主な目的といえば、それは新しい物質や現象を発見することです。私の場合は、真菌感染症に関する新しい治療薬や診断法を見つけるのが第一の目的でした。研究成果が得られたら、当然ながら論文にして学術雑誌に発表することになりますが、論文に使えるデータは図表のほかには静止画像に限られます。

 今の学術雑誌は紙ベースですから、動画は掲載できず、補助データとしてしか使えません。しかし動画でしか得られない重要な情報が多くあることを考えると、動画掲載が可能な学術メディアの出現が期待されるところです。また動画を作るのに多額の経費が掛かることも大問題です。私も経験があるのですが、論文 1本分の動画ですら作るのに百万円から千万円の単位の費用が必要になります。したがって、普通の研究費ではとても賄いきれない。残る手立ては、学術的動画の重要性をなんとか国や担当省庁に認めてもらって、公的な助成金が出るようにすることです。それが早く実現するよう願っています。
上田: では、細野先生、お願いします。
細野:
















日本大学の細野です。私はアイカムさんとは、当時の日本ビフィズス菌センター、現在は公益財団法人腸内細菌学会の設立30周年記念の企画で『共生のはじまり』の映画を作る時に知り合いました。腸内細菌は徐々に、腸内フローラ、腸内細菌叢として多くの方々が耳にするようになってきました。当初は、腸内細菌研究の日本のパイオニア的に活躍された光岡知足先生が、分かりやすく伝えるために、善玉菌・悪玉菌という言い方をされたところもあり、いいものは良く、悪いものは悪く……というイメージを持たれてしまいますが、ただ体の中では、腸内細菌がいいか悪いかは一方的には決められない。「共生」という言葉の中で、お腹の腸の発達とか、免疫学的な仕組みを考えた時には、非常に面白いところがあるというのを映像化する企画でお手伝いすることになりました。
 アイカムの会社に、何人かの先生方が集結する形で、武田さんらが挑んで来られた過去の映像もいくつか見せていただき、すごいな、ものすごい技術力だなと感動し、ワクワクしながら、こんなことができたらいいな、と会合を重ねて、限られて予算だけど、それが社会にどう還元できるだろうかと考えて、あの映像になりました。実際に、「こういうふうに体の中を見たら面白いのではないか」というのに対して、「だったらやってみましょう」と具合で、興味と知的好奇心というところで関わることができて、非常に楽しい時間だったな、と思います。
  
 近年は、分かりやすく映像で示すことが求められていると思いますし、腸内細菌を取り巻く環境も、数年前からNHKスペシャルなどでもCGを使って紹介されて分かりやすさに繋がっていると思いますが、やはりアイカムが取り組んでいた実際、生体の中で起きている部分の映像は、私たちからするとまったく説得力が違う。
 じゃあ近年のわかりやすさというのは研究者がイメージングの手法の中で、どんなふうに関わっているだろうか。私たちの場合は、その細胞が体の中でどこに作用するのだろうか、と追っていけることだとか、遺伝子組み換え技術などを使うと効果的にできるけど、お金もかかるし、手間もかかる。いろんな学会では若い研究者を奨励する発表賞もあって、イメージングをうまく駆使した発表はとても人気が高い。私たちもいろんなところでトライしていきたい。こういう機会に交流を深められればありがたいと思います。
研究の中で映像を使う
上田: 続いて松井先生ですが、具体例として、今やっておられる研究で、こういう手法で使っているということを、今日はスライドも持って来ていただいたので、お話いただければと思います。
松井:





















































東京工科大学の松井です。まだ若輩者ですが、イメージングを特に研究で使っているということで、今日はご一緒に考えさせていただければと思います。私は主に皮膚の進化の研究をしています。先ほどの映画で、歴史を振り返るというのは、すごく勉強になると思いました。いろんなことを想像しながら拝見しました。
 皮膚の分野が、真菌の分野とすごく近いと、改めて感じて、来年5月に国際皮膚科学会が久しぶりに東京で行われるのですが、映画に出てきた第一回の皮膚科学会が開かれたパリの雰囲気とかから、イマジネーションが広がりました。
また、慶應大学の皮膚科と共同研究で、皮膚と細菌叢との相互作用ということで、無菌マウスもここ数年、使い始めていたところだったので、ああいう映像が本当に勉強になるなあと思いました。教育でも、学生さんには本当に勉強になる映像だなと思いました。改めて、大事な気づきになりました。  

 私は、日常的に動画撮影して皮膚の表皮の研究に使っています。
 死んだ細胞の角層が、体のバリアの最前線として、皮膚、表皮の一番外側を覆っている。この角層は、陸上脊椎動物が陸上に進出した時に獲得されたもので、私たちが空気の環境、気層で生きて行けるための必須のものです。両生類、爬虫類、哺乳類と皆、死んだ細胞層を持っています。私たちは、細胞がどうやって死んで、この角層ができるかという瞬間を映像として捉えないと、角層形成のメカニズムに迫れないと思いまして、これをずっと研究しています。


 これは皮膚を電子顕微鏡でみた像ですが、細胞がそれぞれどんどん積み重なって最後、大きな平べったい細胞になり、最後は死んだ細胞となり、機能的なバリアとなって私達のからだを守っています。そしていずれ表面では、だんだん剥がれていくことになります。






 これが、マウスの体の中でカルシウムが細胞の中で増えると緑色に光る、というクラゲから作られた特殊な蛍光タンパク質をセンサーとして、体の中に発現している、存在しているというマウスを作り、共焦点レーザー顕微鏡の断層像として、皮膚表面を観察している。皮膚の奥の方、表皮の下の方の細胞は、緑がキラッ、キラッと光る、ということは一瞬だけカルシウムが上がっているということです。けれども、この顆粒層では、これがまさに角層ができる瞬間を捉えた映像ですが、死ぬ直前に、すごく長い、60分ぐらいカルシウムが上昇して、パッと消える。この後に、細胞が死んで行くということで、その後の私たちの研究で、これが「酸性化」。皮膚の表面は弱酸性ですが、この消える瞬間は「酸性化」で起こっていることも証明しました。長いカルシウムの上昇があって、そのままカルシウムは高くなって、その後、酸性化が急に起こる。そうやって、角層は形成されるのだと。これは去年2021年の論文の内容で、やっと、分かり始めたところです。

 映像を撮っていかないと、60分間カルシウムが上がって、酸性化するなど、そういうことは、切片を見ていた時代には全くわからなかったんですが、やっと顕微鏡と動画撮影を組み合わせることで、私たちはこの角化の瞬間を捉えた。ここからまた、角層はどうやって、そのタイミングを決めているのだろう、とか、何がカルシウムを上げているのだろうとか。ずっと積み重ねていって、真菌のような細菌が生育する層が出来上がる、そこまではまだまだ長い道のり、空間的に距離があるけど、それを一個一個イメージングで解明していかなくてはならない。
 これはただ体の内部の特定のイオン、カルシウムと核だけをみているだけですが、先ほどの動画を見せてもらって、そのものを見るという映像は大事だな、と今日はあらためて感じました。表面からそのものを見ていくとまだまだ気づきがあるのだろうと学ばせていたただきました。  
映像を研究に、教育に活用するには
上田: 3人の先生方のお話を伺いました。それで実際に映像を作られたアイカムの武田さん、アイカムの映像作りで今後乗り越えていかなくてはならないものが、いくらか見えてきた気もするのですが、松井先生のような新しい研究でこういう映像を使いたい、山口先生からは教育にももっと活用したいし、研究者自身がもっと映像を撮っていけるような環境もほしいというお話もありました。
 そのあたりを受けて何か思うところがありましたら、お願いします。
武田:
ぼくらはお手伝いをしているだけで、自分で創造して新しいことをやるということではない。だから、先生方のお話を聞いて、現場でマウスと間に立ってお手伝いしているだけで……
川村: そうですね。テーマというか、何を見たいか、何をみたらいいか、は、先生方から課題をいただいて、こちらはどうやったら撮れるだろうということを一生懸命考えるわけです。
武田: そうそう。先生方の思いとか、見たいもの、目的を聞いて、マウスなどを扱うのはたくさん扱ってきたので、そこでお手伝いできるかどうか。最初からこうすればいい、というのはあまりないですね。
上田: なるほど。そうした場合に、たとえば、こうした機会に、松井先生はこういうことをやっている、こういう映像をほしいと思っているのだとわかったりしますよね。
  今までは、スポンサーから話があって、アイカムが受け手で動き出すスタイルも多かったと思いますが、今、先生方の方から、自分から動画を撮って、研究に使いたいといういろんな規模の欲求が出てきている感じがするんですね。そういうものをアイカムがどうキャッチしていくか。そのつなぎは必要なのではないっでしょうか。山口先生そのあたりいかがでしょう。  
山口:


















それは大変重要な点です。確かに今まではアイカムが製薬企業などに依頼されて、動画を中心にした映像作品を作るケースが大半だったように思います。しかしこれからは大きな企業がスポンサーになって研究者が希望する映像作品の制作を支援することは、ほとんど期待できない。一方、研究者がたとえ十分な研究費を持っていたとしても、専門的な特殊技術がなければ、必要な映像は撮れません。そんなわけで、映像作りの専門家に気軽にアクセスできるような仕組みがあると良いのだがと思うのです。

 それと似た例として、微生物の電子顕微鏡学的研究では世界的に有名な日本女子大学名誉教授・大隅正子先生が設立した認定 NPO法人総合画像支援が行った事業があります。先生がこの事業を始めたのは、電子顕微鏡その他の画像撮影装置を持っていないかまたはそれを扱える技術者がいなくなったために、必要な画像を撮りたくとも撮れないで困っている研究者が大変多いという理由からでした。そこでそうした画像撮影が可能な大学などの研究施設の間で共同利用ネットワークを作り、希望すればどこの研究者でも利用できるようにしようとしたのです。大変な苦労をされたようですが、少しずつ協力する施設が増えてこの共同利用ネットワークが広がったと聞いています。しかし今のままでは利用する研究者にとっては有難くても参加施設の人的・経済的負担が大き過ぎる。それで大隅先生はこれを国の事業として運営しているもらうために関係省庁などに随分と陳情もなさったのですが、結局、最後まで国は動いてくれず、理解のある財団や有志者の支援を仰がざるを得なかったそうです。

 大隅先生が考えられたシステムは大変参考になりますが、動画作りの場合はいささか事情が違うように思います。それは動画に関してはそもそも専門の技術者が大学などには存在しないので、実際の仕事はどうしてもアイカムのような専門の装置と技術を持った会社に頼るほかないという点です。一方、共通しているのは、どちらもシステムを維持するには かなりの費用が掛かるために公的な支援が不可欠だという点ですので、そうした支援体制の仕組みを作ることが何よりも重要だと思います。これを実現させなければ、教育や研究に真に役立つ映像を作るのは、今後ほとんど不可能になるのではと心配しています。
上田: なるほど、ありがとうございます。細野先生、今のお話を聞かれて、公益財団とか、医師会とか、なんとか動いてくれそうな、自分自身で仕組みを持つというより、サポートしてもらえる、つなぎの役割をする、国にも働きかける面から力になってくれるところはあるのではないかと思いますが。もし、腸内細菌学会で、研究者がこういう動画を撮ってみたい、アイカムの力を借りたい、でもお金がなかなかない、自分では技術もないので研修を受けたいなどのリクエストが出てきたときに、何ができるか。思うことはありますか。
細野:







今のお話は、一つは財源をどう確保するか、そして、どんなことをやってみたいか、ですね。財源はかなり工夫しないといけない。それぞれの科学研究分野の学会の中ではわかりやすく伝える必要性、これからの若い研究者をうまく獲得しながら、発展し続けていくという役目があると思う。今までの先生方のお話の中で、教育につながるところで重要ですし、腸内細菌学会で行なった時には、何かの形で教育的配慮が必要と考え、例えば、赤ちゃんを抱えている家庭ではアレルギーの問題もあるので、そういう啓蒙的な活動の中に社会的使命を帯びて、財団で、学会活動で抱えている予算の中でうまくできないか、というところでした。現在、参加会員数も支援する企業の数も減って、予算が潤沢にある学会は少なくなっている。財源についてはクラウドファンディングのような形とか、何か工夫が必要だと思う。
 もう一つの、何をやりたいかについては、個人的には生体の中でのイメージングとか、面白いと思うものはいっぱいあるが、先ほどの「共生のはじまり」のような、腸内の環境を舞台に、例えば、乳酸菌飲料を飲むと、脳内の睡眠、ストレスにどう関わるのかというような、市民社会でニーズあり、多くの人が興味を持たれているテーマがまず対象になると思う。「脳腸相関」、腸と肝臓や生活習慣病など、非常に映像化は面白い題材です。技術力、財源、大学の中では人手の問題も抱えているけど、あきらめず、辛抱強く、何か方向を見つけていければいいかなと思います。 
上田: 松井先生にインタビューした時、個々の研究者が動画を撮って、研究に活用していく人が増えているという話もあり、個々の実践もあるだろうが、アイカムの技術でもっと長期に渡って撮るとか、そういうニーズも高まっていると思います。研究者の側から、こういうことをやってみたいということをアイカムに提示する方法はあるのでしょうか。
松井:
研究者も日頃、このデータを取らなくてはならないとか、日々の論文目指したデータ取りと同時に、こんなとんでもないことを撮っても面白いかも、とひらめいたりしているはずなんですけど、それを明日やろうかというと、ちょっと止めておこうかとなる。日々葛藤があり、研究室の中では始終話してはいるけど、それをもう少し吸い上げて膨らませる……今なら、ホームページとか、クラウドとか、バーチャルな場を作っていろんな意見を言う場があってもいいのかな。そうした場での意見を整理して、今度こういうものを撮っていく、というふうに進めていくのはどうか、と思いました。
上田: 先ほど資金の面で細野先生からクラウドファンディングのことも出てきましたが、山口先生もご指摘の、どうやって、いろんなところからの支援を集めるかは、大きな課題ですが、例えば、クラウドファンディングも成立するには、ただ一般の人に投げかけてもうまくいかない。どんな仕組みがあればいいか。例えば、細胞生物学同好会というか、こういう映像が大好きという人は結構いると思います。そういう人たちを集めて、いつも情報交換とか、こういう映像撮ってみたい、というような話ができる場を作ってみてもいいのではないか。
 あるいは、研究者がこれだけ映像の価値を認め、欲しがっているのだということをきちんと示したら、国に動いてもらわないと困る。映像を使った研究を推進していく基金のようなものが、そろそろできて当たり前なのではないかな、という気がする。山口先生その辺いかがでしょうか。
山口: およそ生命科学の研究者なら誰もが映像、特に動画の映像が教育・研究にどれほど重要か知っているはずです。問題は、優れた映像を撮るための環境に恵まれていない研究者を技術面だけではなく、資金面でどのように支援するかです。今直ぐ国からの支援が期待できないことを考えると、先ずは一般社会人の方々にそのことを理解して頂き、国への要望を下から積み上げていくことが必要なように思います。私のいる研究施設では、以前から夏休みを利用して地域の小学生を対象に、1日コースの真菌実習をやっています。その際にさまざまな真菌を光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察させるのですが、面白いことに当の小学生よりも付き添ってきた親御さんが一層興味を示すのです。そのことからも、一般の方に画像の重要性を認識させることはさほど難しくはないように思っています。そして社会全体を通して広くコンセンサスが得られるようになれば、国も重い腰を上げて支援してくれると期待しているところです。具体的には、文科省の科研費に Imaging biology とでもいった助成対象のカテゴリーが新設されればと願っています。
映像作りの中から
上田: ありがとうございます。そろそろフロアの方から、ご質問を含めて、やりとりしてみたいと思います。映像作りに関わってきた方もいらっしゃるようですが。
吉野:







アイカムのOBに当たる吉野と言います。先ほどみていただいた二つの作品、それぞれ制作デスクや営業を担当し、思い出深い作品です。
  私はどちらかというと制作サイドより営業サイドで仕事しましたが、在社中に驚いたのは、外部の人が予想しなかったほど、皆さん映画をよく覚えておられる。製薬メーカーの方も、先生方のような研究者にも、アイカムのファンの方が大変多くいらっしゃる。営業する上で、そういう熱烈なファンの方が自分のテリトリーでイニシアチブを発揮してくださる。企業の方だとこういう企画を会社に通す、予算も確保する。熱意ある作品は、また次の作品も牽引する。そういう連鎖が起きて、大変助けられましたし、それに応えるために、現場スタッフも大変苦労するけど頑張って映像化しました。そういうファンを一人でも多く作る、それに尽きるのではないか。
 大隅先生は日本女子大をやめられた後、映像関係のNPOを立ち上げられた時、ご挨拶したら「あなたはライバルよ」と言われて、大変光栄に思っています。大隅先生も大学の授業で、アイカム作品を多く使ってくださり、フイルム作品だったので、その度に呼ばれてフイルムをお届けした楽しい思い出があります。
上田: もう一名、アイカムの方で、長谷川さんお願いします。
長谷川:







私も昨年まで50数年、アイカムの映像制作に携わり、『共生のはじまり』では細野先生のところに無菌マウスを受け取りに通いました。劇映画にいい作品が国内外にたくさんありますが、科学映画で強い印象に残っているのは、やはり本物を見ていく、いのちの大切さをずっと追求して来られたということ。今、世の中でいろんなことが起きますが、「いのち」ということを根底に考えれば、一番、みんな幸せになれるのではないか、と思います。シネ・サイエンス、アイカムを通じて、「いのち」から考えるべきだと仕事してきました。今日は2作品を久しぶりに大きい画面で見られてよかったなあと思います。
 では、これからどうするか、松井先生の研究されている皮膚の映像など見ると、いろんなことにつながるなあと思います。痛みのメカニズムとか、そういう作品に関わったこともありますが、感覚を画にするのはすごく難しいなあと思っていました。でも今の先生の断層で見ていく、カルシウムが光っているという映像を見ると、これだったら、スポンサーを探して映像化できるのでは、という気持ちにはなりました。私も後半は、吉野とともに営業も担当しましたので、スポンサー探しの課題というのは常に頭にあり、これを作品にするのは楽しいのではないかと思います。
上田: フロアの皆さん、いろんな立場から受け止めて、ぜひ何か一言二言でも言っていただければと思います。
佐藤: 84歳の高齢者ですが、私たちのやっている「化学物質は世代を超える」小さな学習会のチラシを配らせてもらいましたが、エピジェネティックの研究をなさっている毒性学の方が、自分たちは動物で実験はたくさんやっているが、人間に対する影響は……とPCBの被害者に興味を持ってくださった。54年前のカネミ油症事件では、PCBダイオキシンを直接食べた北九州の人たちのその後の悲惨な人生、その方達を私たちは支援してきたが、直接食べていない次世代まで被害は及んでいるということが明らかになって、やっと国が動き出した。そこで、学習会を行なっているが、もう一つ別の集会でカネミ油症の話をした時に、55年後のドキュメンタリーを作りましょうという監督が出てきてくれ、今、取材に奔走している。どこでどんな出会いがあるか、不思議を感じている。アイカムの皆さんのことは、ある程度、存知あげていたけど、映像とか出会いはすごく大きな力になります。
 「化学物質は世代を超える」という言葉は、持続可能な人類の幸せにとってものすごく大きな問題です。人体の中でもアトピーや、精子が減ってきているとか、うつ病、脳もそうだが、農薬や原爆、放射性物質、化学物質が人類に与える影響を本当にこのテーマに今取り組まなくてはならない。私は4人の子供を産み育ててきてそう思います。
 出会いがあればいいなあ、気づきがあればいいなあと思います。
上田: チラシを配っていただいたこの学習会を主催している澁谷さんは、私もよく知っていて、市民科学研究室の会員で講座の講師を担当していただいた方でもあります。今の生物医学の「世代を超えて」という問題は、いろんな角度から研究、取り組みされている問題でもありますよね。
アイカムのめざすものと、アーカイブのこと
斎藤: ユニ通信社の斎藤です。二つ伺います。一つは、今日語られているのが、アイカムさんのもつ技術とか、生で見られる映像の大切さみたいなところですが、技術や素材があっただけでは、これらの作品はできていないと思います。映像作品として、アイカムがどのように作ってきたのか教えていただきたいのかと、もう一つは、今後、このようなものを作り続けていかなくてはいけない、とともに、こういうものを残していかなくてはならない、アーカイブというものについてどのように思っているのか、この二つ、お願いします。
上田: 川村さん、お願いします。
川村: 二つめの方からお答えします。フイルム時代に作ってきた作品が、結構な数ありまして、原版をネガの形で、アイカムが無償でお預かりしていますが、毎年の負担もさることながら、経年劣化も心配でどうケアするかが問題です。
今、国は国立映画アーカイブという組織、システムを作られて、今日もこちらにきてくださいましたが、そこでお預かりくださるという、とてもありがたいお話があります。著作権はアイカムにあったり、企画した企業や団体と共有だったりしますが、すでに原版をアイカムに預けたことさえ、忘れていらっしゃる場合も多いのですが、今、一つ一つ確認し交渉して、国立映画アーカイブに原版を寄贈して保存いただくことを進めています。
 また、このシンポジウムの機会に山口先生をお訪ねした時に、山口先生に監修いただいた医真菌学の研究分野の映像作品が40作品、さらに他のも入れると70作品ほどあるのですが、これをなんとか今の学生さんや若い先生方にだけでも見てもらいたいですね、というお話があって、今、活用の方策をご相談しているところです。
 アイカム55年で1000タイトルぐらいはあり、他の分野でも保管や活用していくいい方法があれば、とは思います。なかなか難しいですが、ライブラリーとかアーカイブの成功例ができれば、可能性は出てくるかもしれません。
上田: 一つめの問いに関しては発言の中で少しずつ触れられてはいたと思いますが、私の目から見たら、アイカムさんが、研究者からこういうものを撮りたいというものを受けて、一緒に考えて、アイカムのストーリー性を持ちつつ、全体を組み立てていくというプロセスがあったような気がします。ただ単に研究者が研究資料として使えるだけの映像とは違う、それが大きい特徴かなと思います。そのあたりの作り方は何か定式があるわけではなくて、おそらく、先ほどスタッフの方の発言にも感じられる、いろんなやり取りの中から自ずと生まれてきたなにか「アイカムのやり方」としてあるのではないかなと思います。
斎藤: その辺のところがさっき、長谷川さんもおっしゃったような「いのち」とかがあるのかなと思ったのですが……。
川村: そうですね。この頃、こういうテーマでこう作りたい……という映像作品を作れる機会が少なくなってきました。例えば、抗菌剤の効果を証明するような画像を撮ってほしい、というような仕事はあるけど、スタッフとしてもそれだけでは物足りない。そういうところで技術を活かすだけではなくて、生き物は動きだと思うので、生き物の動き、いのちの姿を捉えられるのは動画、映像だからこそです。
 最初に、武田が立ち上げた時に、なぜこういう仕事が面白いと思ったか、というと微速度撮影なんだそうです。最初に、細胞分裂とか真菌の増殖を見ていただきましたが、あのインターバルを何秒に1コマにするか、何分に1コマにするかで見える姿、表情が違ってくるわけです。そこが面白い。どう捉えれば、いのちの姿を捉えられるのかな。それを私たちスタッフも求めているような気がします。
上田:
なるほど、ありがとうございます。それからアーカイブのことが出てきましたので、ご発言いただければと思います。
大澤: 国立映画アーカイブから今日は参加させてもらいました。私は映画の専門家なんですけど、科学映画、戦前の『雪の結晶』とか、戦後の『いねの一生』とか日本の科学映画の名作と言われるものがいっぱいあって、そこにシネ・サイエンスからアイカムという、こういう素晴らしい科学映画を作る会社を持ってしまったがための、今日の悩みかなと思いました。普通はスポンサーから依頼されて、そのいう通りに作れば、出来上がるわけで、ブームがあれば、ブームが終わっていく時代もあるわけだから、それで終わりなんだと思うわけです。
 でも、あまりにもアイカムさんが作ったものが素晴らしすぎて、「これ、やっぱり残さないともったいないよね」というのが、今日の皆さんの原点なのかなと、そういうふうに聞いていました。
 で、我々は去年ぐらいから、アイカムさんからご相談いただいて、原版ネガをご寄贈いただきますというやりとりをしています。我々としては、それを大事に保存していく。ただ、我々はフィルムをいい環境で保存する、そういう環境は持っていますが、それはネガなので、それだけではアーカイブとは言えない。アーカイブとしては、収集・保存して、時には、復元して、皆さんに公開する、そのサイクルが一つのアーカイブ事業です。お預かりするだけだと、単に保管だけで、それを皆さんが利用できるようにするにはいくつか乗り越えていかなくてはならないハードルがある。
 一つは著作権。我々はフイルムをご寄贈いただくのは、所有権が移動するだけで、著作権は著作権者のところに残る。著作権者の了解なしに勝手には我々は何もしません。著作権者の理解が大事になる。日本では、映画は作られて70年は著作権が保護されるので、アイカムの作られた映画はすべてまだ著作権が生きている。利用するならば、著作権者と話をつけていく必要がある。
 もう一つは、利用するためのデジタル化ですね。フイルム制作されたものをデジタル化するには、ピンキリで、簡易なデジタル化もあれば、いい画質でデジタル化するには傷や退色を修復すれば高額になります。とても1企業の手に負える金額ではなくなってきますが、どういうレベルでデジタル化していくか。この二点が今後の課題かなと思います。
上田: なるほど、ありがとうございました。ここで論じて、これが解決策というところが見出せるわけではないのですが、課題としてしっかり認識するには、今の二点は大きな問題かなと思います。
山内:





















私は日本映画新社という、戦時中ニュース映画を作っていた会社にいて、今はアーカイブの仕事に携わる者ですが、今日は非常に貴重な映画を見せていただき、アイカムさんのシネ・サイエンス時代から50余年の歴史を見て、大変感動しました。昭和43(1968)年には、日本映画新社はどんどん衰退いく時代に、アイカムさんが立ち上がって来られて、50年間こういう映画を作って来られた。とても面白いお話でした。
 ずっと見ていて頭から離れなかったのは、昭和7(1932)年に寺田寅彦がある文章を発表した。それはちょうど映画でニュースを伝えることが始まり、ニュース映画と新聞記事の違いを論じたエッセイですが、「映画はある事象を全部、具象として記録しているが、新聞記事は、そこに人間が情報を抽象化している」と。
 例えば、銅像の除幕式があって、ニュース映画は頭から終わりまでずっと撮っているので、幕が途中引っかかったとか、挨拶する人の髪の毛が風になびいたまで描かれるが、新聞記事には「誰それの除幕式がいついつあった」という抽象化した言葉しかない。昭和7年に寺田寅彦は、映画の特徴をそのように著している。
 上田さんの資料の中に、昭和19年に中谷宇吉郎先生が、「どうせわからないものならば、思い切って、わかろうとすることを初めから断念してしまうのが、映画の一つの道ではないか」これは勝手に抽象化することで、見せたいものを作者が限定して見せるのではなくて、動画という映像を見せることで、受け取る側がいろんな受け取りができることを今日、学ばせてもらいました。
 今後のことは、お金の問題が付いて回ると思うのだけど、僕は、有名な科学映像館の久米川先生と僕のボスである日映の社長が大バトルをするところをそばで見ていたんですが、久米川先生は「これこれの意義ある事業をするのだから、あなたの映像をタダで貸しなさい」と言い、うちの社長は「そんなことはできるわけがない」と言い、大げんかして、日映新社から一本も出さなかったと思う。今、著作権法で、70年間守られているけど、その中で著作権者の理解があって、公開していく方法を探っていかなくてはならないと思うけど、国の文部科学省などのお金でアーカイブができるのが理想かもしれない。大学でも限界があるように思う。
 今はネットフリックスとか、数年前なら考えられない金額が動いている映像世界がある。制作費のバジェットが数百倍。資本主義社会では、人の欲望を喚起すれば、お金は動く。今日見た映画は確実に面白いので、人の欲望と結びつけられれば、今では考えられない予算が動く映画がつくれるのではないか、と夢想した次第です。
上田: ありがとうございます。なるほど確かに世の中の新しい動きがありますから、どのようにうまく利用していくかですね。綺麗な結論をまとめる形にはなりませんでしたが、実際に映像を見て、いろんな課題の洗い出しすることはできたかと思います。アイカム社とは、市民科学研究室としてこれからも関わり合っていきますし、先ほど、先生方から示された具体的なアイデアもありますので、受け止めて、引き続き歩んでいけたらと思います。
川村: 今日はみなさま、御参加いただき、ありがとうございました。私たちもこの先どうやっていけるのかと思うこともありますが、ここは元気を出してなんとか頑張って行きたいと思います。 (拍手)
上田: 本当にどうもありがとうございました。   (拍手で閉会)
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